2011/01/24

新興国投資、期待できるがマイナス材料にも注意

内需が活発で投資成長もある新興(エマージング)諸国では、国内総生産(GDP)はプラス5%から10%の成長を遂げた。一方、欧米諸国では1~3%の成長にとどまった。

エマージング諸国の企業収益は一段の成長が見込めることから、こうした企業のバリュエーションは、引き続き魅力的だと言える。しかしながら、インフレ圧力の高まり、資本流入の制限策が講じられていることに加え、政治的な不安定さは、こうしたエマージング市場が抱える課題だ。

国際通貨基金(IMF)は、エマージング諸国の今年の経済成長率を平均約6%と見込んでおり、中国は10%、インドを9%としている。

エマージング諸国の中流階級の所得が急速に増加していることは、内需を大きく押し上げる効果が期待できる。さらに、エマージング諸国の対外貿易は拡大しており、財政収支も比較的好調であることで、新興国の成長モメンタムは、維持される見通しだ。

新興国では、また、若年層の労働力が潤沢で、これも経済成長を支える一因だと言える。たとえば、インドでは、25歳以下の人口が全体の半分以上を占める。つまり、同国では、毎年2000万人以上のあらたな労働力が加わることになる。したがって、同国では生産性が拡大し、経済発展に必要な労働力を確保できることになる。

バリュエーションの側面では、エマージング諸国株価倍率は、引き続き妥当な水準で推移している。ブルームバーグの統計によれば、株価収益倍率(PE)は、9倍から16倍になっており、PE予想は8倍から13倍と歴史的な平均を幾分か下回る水準に低下する。MSCIエマージング市場採用企業の1株あたり利益(EPS)伸び率は今年、20%程度の見通しで、その中でもラテンアメリカは、29%の伸びが予想されている。

企業収益の大きな伸びが期待されることで、エマージング株式市場は、一段高の展開となる見通しだ。

エマージング諸国には好材料が多くみられるものの、短期的に相場を左右する事象にも投資家は目を向けるべきだ。特に、インフレ圧力や過剰な資本流入には、注意が必要だ。

昨年は洪水や干ばつなどの自然災害が、農産物製品に大きな打撃を与えた。

供給不足と投機的な動きが農産物価格を大きく押し上げ、インフレを助長することにつながった。新興国は特に、食糧価格の高騰による悪影響を大きく被ることになった。たとえば、昨年のブラジルのインフレ率は6%となり、過去6年間で最高となった。インドとロシアでは、インフレが8%となっている。

また、エネルギーと原材料価格が上昇傾向にある状況にあっては、新興国のインフレ率が高止まりする可能性が高い。年内の金利引き上げの可能性が高く、これが株式市場にはマイナスに作用する可能性が危惧される。

インフレ以外でも、懸念要因が存在する。世界各国で金融緩和策が遂行されている結果、いわゆるホットマネー、投機資金の流入からの市場への悪影響を防ぐために、すでにいくつかの政府は、投資資金の制限策を打ち出している。

インドネシア、タイや韓国など外国からの国内資産への投資制限や、資本移動コストを引き上げに踏み切ったが、こうした新興諸国に先駆けて、ブラジルは、資本流入への課税を打ち出した最初の国だ。

こうした施策は、株式と外国為替市場に、悪影響を及ぼし始める可能性がある。さらに、新興諸国の一部では、依然として財政的に不安定であり、時として混乱に陥る可能性は否定できず、市場での信頼感が低下する危険性がある。

投資家は、こうしたマイナス要因にも注意して、エマージング市場への投資判断を行うことが求められる。

2011/01/17

欧州、財政赤字危機の再来も

今年も欧州経済は、不透明性が高く、欧州連合(EU)加盟各国は概ね、2つのタイプに分けられる。

ひとつは、ドイツとフランスで、力強い経済成長を示しており、ユーロ圏の景気回復に向けて牽引役になると期待されている。

もう一方は、PIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)と称される主に南欧を中心として国々で、景気が停滞し、巨額の財政赤字を抱えている。

欧州企業の収益は、今年、改善が見込まれる一方で、こうしたPIIGS各国政府は、まとまった規模の国債償還も抱えている。償還に向けての資金の必要性が生じることで、すでにタイトな状況にある資金調達市場には、あらたな圧力が加わる危険性があるだけでなく、あらたな債務危機に直面する可能性もある。

ドイツ連邦統計局によれば、昨年の同国の経済成長率は3.6%で、過去20年で最高となった。同国の輸出は14.2%増加、機械や設備投資も前年比9.4%と拡大している。こうした状況下で、ドイツの各企業の収益は、大きな伸びが期待できる。

ブルームバーグのデータによれば、ドイツ企業の1株あたり利益(EPS)は、32%の増益が見込まれている。ドイツ株式指数の採用企業の株価収益倍率は、結果、15倍から11倍に低下する見通し。英国とフランスでも、同倍率は10〜11倍に、EPSは17〜30%の増益が予想されている。

欧州の大国は、経済的に良好だが、ユーロ圏全体としては、大きな問題を抱えている。

欧州統計局は、統一通貨ユーロを使う各国全体での小売り売上高が、昨年11月に0.8%減少した。これは、昨年4月以来の最大減少率だ。12月の消費者信頼感は、6カ月連続でマイナス圏にとどまっており、内需が停滞している様相を如実に現している。逆に、12月のインフレ率は、2年ぶりの高水準となる2.2%を記録している。欧州中央銀行(ECB)が事前に予想したインフレ・レンジの上限を超えており、したがって、利上げの可能性が見えて来たと言える。

しかしながら、市場は、それ以上にPIIGS各国を取り巻く財政赤字への懸念を強めている。

ポルトガルは先週、12億5000万ユーロの国債発行を成功裏に終わらせ、投資家は一時的には財政破たんが回避されたとみている。しかし現実は、危機が完全に回避されたとは言い難い状況だ。

ポルトガル中央銀央は、同国の2011年経済が1.3%のマイナス成長になると予想している。これにより、税収が減少し、結果、財政状況が一段と悪化することが予想される。国際通貨基金(IMF)のデータによれば、ポルトガルのネットベースでの財政赤字は今年、同国の国内総生産(GDP)の83%程度にまで拡大する可能性があるという。

同国が上半期に償還を抱える債券の総額は200億ユーロで、同国の10年国債の利回りは1月初旬に、史上最高となる7.193%にまで上昇している。

ブルームバーグによれば、ギリシャとアイルランドは、それぞれの国債利回りが7%を超えた47日後にEUとIMFに金融支援を求めたという。

したがって、今回のポルトガルの新規国債発行が円滑に行われたものの、同国は依然として巨大な赤字を抱えていることに変わりはなく、やがては金融支援を求める可能性は存在する。

さらに、スペインは、欧州経済の安定にとって、重要な位置にある。不動産バブルの崩壊は、同国の国内銀行にダメージを与え、各行が抱える不良債権比率は15年来の高水準となっている。

昨年12月以降、格付け機関ムーディーズは、スペインのソブリン債の引き下げ機会を探っており、すでに同国の国内30行の格付けをレビューしている。

EU第4位の経済大国であるスペインが、財政赤字難に陥り、銀行が相次いで破たんするような事態に発展した場合、欧州財政赤字危機の第二弾に突入することになり、欧州経済の回復には大きなダメージとなる。

2011/01/10

中国の株式市場上昇が見込まれるが懸念材料も存在

2010年の中国の経済は、推定10%と大きな成長を遂げたが、上海A株市場は、見劣りするパフォーマンスとなった。

上海総合株価指数は、昨年、14%のマイナスで、世界の株式市場を通じてギリシャとスペインを辛うじて上回り、下から3番目に低い成績となった。ギリシャとスペインは、欧州の財政危機の中心的な国。

企業収益と内需が大きく改善していることで、同指数は今年、値を戻すことが期待されており、証券会社の間の見通しでは平均20%の上昇が見込まれている。しかし、地方政府レベルでの財政赤字が拡大しており、資金の貸出の伸びが見られる、インフレも高進していることは、株式市場にとっての懸念要因だ。

中国の経済成長ペースは、今年は幾分か鈍化することが予想されるものの、好調な内需、固定資産投資と企業収益は大きく改善すると見込まれている。

中国の国家統計局によれば、昨年1月から11月までの小売り売上高は18%増加、都市部の固定資産投資は、25%増加しており、今年は、小売り売上も固定資産投資も、昨年と同じペースで増加すると予想されている。

ブルームバーグのデータによれば、中国本土企業の一株当たり利益伸び率は今年、最大で36%が期待されており、上海株式市場の上場企業の株価収益倍率は、昨年の18.3倍から13.5倍に低下するという。証券会社では概ね楽観的な見方が支配しており、上海総合株価指数の上昇率予想は、22%から47%と強気の見方が支配的だと言える。

しかしながら、中国本土企業にも懸念材料があり、投資家はこうした問題にも目を向ける必要がある。

公式統計によれば、昨年の中国の地方政府が抱える債務残高は7兆8000億人民元に増大したとされている。市場参加者は、この債務残高が10丁元を超えているものといみている。

地方政府の財務残高が高水準であるだけでなく、税収の減収も危惧される。不動産の売買は、地方政府にとって主要な財円の一つであることは事実だ。

昨年来、中央政府は、不動産市場の鎮静化に向けて様々な対応策を打ち出しているが、不動産価格は上昇し続けており、中央政府は一段と規制を強化する意向で、不動産市場では価格面で、大きな調整が起きる可能性は否定できない。

不動産市場が鎮静化すれば、不動産開発企業からの土地に対する需要が縁、結果、不動産取引の件数が減少し、価格も低下する。したがって、土地取引に関する地方政府の税収も低下することになる。

さらに、国内のインフレが加速し、金利には上昇圧力が一段と加わることになる。昨年11月のインフレ率は5.1%と、2008年7月以来の高水準を記録した。インフレを押し合えているのは、主に食料品価格で、2011年を通じて4%台で推移すると見込まれている。

専門家は概ね、年内に、中国政府が金利引き上げに踏み切ると見ている。インフレ抑制に向けて、預金金利は2回か3回引き上げられる可能性があり、預金準備率も変更されることが予想されている。

一方で、不動産関係の融資上限は7兆元に押さえられ、昨年の7兆5000億元から低減されることになる。マネーサプライも減少傾向にあり、市場にはマイナスの影響を与えることになる。

銀行各行が、資本増強を図っていることも株式市場には、不安要因だ。統計によれば、昨年には中国本土の7行が新株発行で増資に踏み切っており、合計で1300億元の資金を調達した。

今年も、銀行の増資は活発で、中国民生銀行は、200億元相当の資金調達を可能とする新株発行に向けて許認可を受けており、農業銀行も、500億元規模の劣後債発行を計画している。

これらの新株発行により、株式市場から流動性が低下する危険性がある。