2011/01/17

欧州、財政赤字危機の再来も

今年も欧州経済は、不透明性が高く、欧州連合(EU)加盟各国は概ね、2つのタイプに分けられる。

ひとつは、ドイツとフランスで、力強い経済成長を示しており、ユーロ圏の景気回復に向けて牽引役になると期待されている。

もう一方は、PIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)と称される主に南欧を中心として国々で、景気が停滞し、巨額の財政赤字を抱えている。

欧州企業の収益は、今年、改善が見込まれる一方で、こうしたPIIGS各国政府は、まとまった規模の国債償還も抱えている。償還に向けての資金の必要性が生じることで、すでにタイトな状況にある資金調達市場には、あらたな圧力が加わる危険性があるだけでなく、あらたな債務危機に直面する可能性もある。

ドイツ連邦統計局によれば、昨年の同国の経済成長率は3.6%で、過去20年で最高となった。同国の輸出は14.2%増加、機械や設備投資も前年比9.4%と拡大している。こうした状況下で、ドイツの各企業の収益は、大きな伸びが期待できる。

ブルームバーグのデータによれば、ドイツ企業の1株あたり利益(EPS)は、32%の増益が見込まれている。ドイツ株式指数の採用企業の株価収益倍率は、結果、15倍から11倍に低下する見通し。英国とフランスでも、同倍率は10〜11倍に、EPSは17〜30%の増益が予想されている。

欧州の大国は、経済的に良好だが、ユーロ圏全体としては、大きな問題を抱えている。

欧州統計局は、統一通貨ユーロを使う各国全体での小売り売上高が、昨年11月に0.8%減少した。これは、昨年4月以来の最大減少率だ。12月の消費者信頼感は、6カ月連続でマイナス圏にとどまっており、内需が停滞している様相を如実に現している。逆に、12月のインフレ率は、2年ぶりの高水準となる2.2%を記録している。欧州中央銀行(ECB)が事前に予想したインフレ・レンジの上限を超えており、したがって、利上げの可能性が見えて来たと言える。

しかしながら、市場は、それ以上にPIIGS各国を取り巻く財政赤字への懸念を強めている。

ポルトガルは先週、12億5000万ユーロの国債発行を成功裏に終わらせ、投資家は一時的には財政破たんが回避されたとみている。しかし現実は、危機が完全に回避されたとは言い難い状況だ。

ポルトガル中央銀央は、同国の2011年経済が1.3%のマイナス成長になると予想している。これにより、税収が減少し、結果、財政状況が一段と悪化することが予想される。国際通貨基金(IMF)のデータによれば、ポルトガルのネットベースでの財政赤字は今年、同国の国内総生産(GDP)の83%程度にまで拡大する可能性があるという。

同国が上半期に償還を抱える債券の総額は200億ユーロで、同国の10年国債の利回りは1月初旬に、史上最高となる7.193%にまで上昇している。

ブルームバーグによれば、ギリシャとアイルランドは、それぞれの国債利回りが7%を超えた47日後にEUとIMFに金融支援を求めたという。

したがって、今回のポルトガルの新規国債発行が円滑に行われたものの、同国は依然として巨大な赤字を抱えていることに変わりはなく、やがては金融支援を求める可能性は存在する。

さらに、スペインは、欧州経済の安定にとって、重要な位置にある。不動産バブルの崩壊は、同国の国内銀行にダメージを与え、各行が抱える不良債権比率は15年来の高水準となっている。

昨年12月以降、格付け機関ムーディーズは、スペインのソブリン債の引き下げ機会を探っており、すでに同国の国内30行の格付けをレビューしている。

EU第4位の経済大国であるスペインが、財政赤字難に陥り、銀行が相次いで破たんするような事態に発展した場合、欧州財政赤字危機の第二弾に突入することになり、欧州経済の回復には大きなダメージとなる。